矢沢峠 再訪

群馬県甘楽郡南牧村【2009.11.07】

難関の妻峠と仕事峠を越えて

2009年11月7日矢沢峠12時集合。久しぶりに激しく心揺さぶられる通達を見る。11月の山サイ研集中ランは地元西上州の難関ルートのひとつ、矢沢峠だ。 思えば、この峠を初めて越えたのは2002年6月。この時も峠は越えたものの本来のルートを完全トレースとまでは至っていない。
今年の10、11月は例年になくMTBイベント目白押し。集中ランの翌日は、とれとれスターバイクツアーズ「飽馬ラリー」のスタッフとしてエントラントと一緒に走る予定であり、そのコースづくりで10月からほぼ毎週出動。11月の後半は上野村で開催されるやまみちアドベンチャーのコースの下見や本番でのガイド役が待っている。
例によって眼前に立ちはだかる妻峠と仕事峠の難易度は、矢沢峠同様最高レベルに達しているが、ここはひとつ、集中ランの集合場所に矢沢峠を選んでくれた同輩に感謝し、万難を排して再挑戦しかないであろう。

第一の選択 余地峠

上信電鉄下仁田行き始発に乗って6時52分下仁田駅着。土曜日の始発はまるでプライベート列車のようだ。下仁田駅近くのセブンイレブンで朝食と昼食を仕入れて、腹ごしらえ。7時25分下仁田からスタート。
さてどのルートで集中しようか。走りながら考えた。最短距離を考えれば余地峠越えだろうが、舗装の田口峠を越えて信州側のサイクリングを楽しむのも捨てがたい。 余地峠から尾根伝いに矢沢峠まで行くのも良いが、なんといってもあの矢沢峠の息のかかった領域である。途中に手強い藪が待ち受けているやも知れず、こちらのルートは時間との相談か。熊倉の集落で、最初の選択に迫られる。やはり優先すべきは集合時間ということで余地峠方面へ向かう。

余地峠への道
9時45分、なんもく村自然公園着。一休みしてから、美しい落ち葉のジュータンの上を余地峠まで進む。
今は、とても車が走れるような状況にはないが、1968年(昭和43年)に開催された第10回日本アルペンラリーでラリーカーがこの峠を越えたという。東京をスタートしたラリーカーが、埼玉県内のオドメーターポイントを経て、最初のチェックポイントとして通過したのが、この余地峠だった。日本アルペンラリーは、自動車によるラリーの黎明期より国内最高峰のラリーとして開催されてきたが、オイルショックやそれを取り巻く環境の変化により中断。時を経て2001年に第19回目が復活。その際に発売されたDVDに、当時の記録が収録されている。

第二の選択 再び余地峠

余地峠
10時35分、余地峠。12時まであと2時間残されていたら尾根筋の道を選択したかもしれないが、久しぶりの集中ラン。集合時刻までには峠に到着したい。ここは確実な線で、余地峠を長野側に下りて、再び矢沢集落からのアプローチを選択した。
余地峠を長野側に下りていくと一人のバイカーに出会う。ゲストで参加表明していたS水さんだった。聞けば余地峠から尾根伝いに矢沢峠に行くという。「じゃあ、後ほど峠で」と分かれた後に、再び矢沢峠で再会できればよいが、もしそうでなければやはり心配になるだろう。同じ山サイ研の会員ならそんなことは心配無用なのだが、このようなルートは初めてのようであるし。
今から余地峠まで戻って、尾根筋を辿るとなると12時集合に間に合うだろうか。後の行動を考えると13時すぎには群馬側に下り始めたいだろう。仲間が峠にいる間に辿りつけるかどうか。この日2度目の選択である。

11時、再び余地峠。これも何かの縁。余地峠に戻ってきた。 さあ、あとはひたすら尾根伝いに矢沢峠を目指すのみ。進行方向にコンパスをセットして尾根をゆく。

美尾根の誘惑

作業道
歩き出して間もなく右下に作業道が目に入った。すかさず尾根をはずして作業道歩く。人は楽を覚えるとろくなことはなく、その先には落とし穴が待ち受けているものだ。作業道終点からそのまま明瞭な踏み後を辿ると、西に延びる美しい尾根に思わず誘い込まれてしまう。そこは南に向かっていた尾根が東南東に折れる箇所であり尾根筋の分岐点だ。この後にも西にせり出す尾根に気を奪われそうになるところがある。いつ何時であっても、艶めかしい尾根ーちゃんの誘惑には、充分に気をつけたいものである。

なんもく自然公園
多少のアップダウンはあるものの順調に歩を進める。なだらかな長野側とは対照的な群馬側の急な斜面の下に、先ほど立ち寄ったなんもく自然公園が見える。S水さんとともに、なかなか良いペースだ。

S水さん

K田さん
尾根ルートも後半になるとところどころ濃い藪が行く手を阻むようになってきた。矢沢峠を彷彿とさせる藪である。途中、同じように自転車を担いでいる人が視界に入る。YGK(山サイ研群馬県人会)のK田さんだった。今日は参加できないはずではなかったのかと聞いてみると、私と同じく厳しい妻峠と仕事峠を越えて来たとのこと。お疲れさまでした。峠手前で再び険しい藪をクリアして12時5分矢沢峠着。予想よりもだいぶ早い時間に着くことができた。

12名が矢沢峠に集合 有史以来初!?

群馬側はなんもく自然公園までほとんど乗れず、激しい藪こぎが待っているというのに、12名の人々が矢沢峠に集合した。これは矢沢峠始まって以来の快挙である。 長野県在住のS水さんは矢沢側に下り、その他11名は群馬側の藪に突入していった。 7年ぶりの矢沢の藪。前回はF田さんと二人で藪と格闘したが、今回は大人数。勢いで藪をかき分けていく。背丈を超える強烈な藪だが足下には道型が残っているのがうれしい。

1/25000地形図上で見ると、矢沢峠は地図に記されている箇所よりも5、6mm上に位置している。峠を示す立派な看板のおかげで現地での確認はすこぶる容易である。 峠から北東に進路を取り、ジグザグに徐々に高度を下げていく。数回密藪を抜けるとかすかな踏み後らしきものが錯綜する。ここで以前はそのまま踏み後をたどって下りていったのだ。今回は、前回の教訓を生かして、途中から北に向かう踏み後を探して慎重に辿る。藪を抜けても足下は不安定だ。急斜面に張り付くようにとどまっている石が、気をつけないとすぐにはがれ落ちていく。

矢沢峠群馬側

なんもく自然公園にまっすぐ下りている大きな沢を渡って、さらに先を進むと余地峠へ行く林道の途中に出るはずであり、おそらくそこまで行けば完全トレースになると思われるが、沢の手前ですでに15時だ。日の短い11月、しかも東斜面では、この時間が限度であろう。それでも8割くらいはトレースできたはずだ。大きな満足感をいだいて、そこからなんもく自然公園へと下りていった。
舗装路を快適に走り、16時20分下仁田町着。下仁田に来れば、必ず立ち寄りたい東陽軒。少し早めに店を開けていただいた。まずはビールで乾杯。そして餃子、野菜炒めと続く。餃子はもちろんだが、この店の鶏の唐揚げも美味い。美味いには理由があるようだが、推測で書くわけにはいかないので、今度立ち寄った時に確認してみようと思う。
無事に帰宅し、荷物の整理。ザックから道具を出して逆さまにしてみると出るは出るは、ザックのポケットから矢沢峠の笹藪の切れ端が大量に床に散らばった。今日一日の行動を物語るようだ。そういえば東陽軒の床にも同じようにお土産を置いてきてしまった。東陽軒さん、すみませんでした。

1/25,000地形図 海瀬