馬道をゆく 広河原越と六助
群馬県多野郡上野村【2004.01.02】
社壇乗越から広河原越まで天丸山の西側をほぼ水平に県界尾根まで続いている道が馬道である。
馬道はその名が示すように、昔むかし馬の背に荷物を載せ人々が行き来した道だったのだろうか。こんな場面を想像させる峠道は山岳サイクリストにはたまらない魅力がある。是非ともこの馬道を自転車で走りたい!と熱い思いを抱いていた。
いざ実行に移す場合、馬道だけ走るならさほど難しいこともないのだが、そこはやはり峠越えが正しい山岳サイクリングの姿。馬道を走ってその先にある峠を越す、あるいは反対側から峠を越えて馬道に入らねばならない。
馬道の先には広河原越(馬道のコル)という峠があり、群馬県上野村と埼玉県大滝村を分けている。どちらから行ってもこの峠を越える必要があるのだが、問題は埼玉側。地形図にも山と高原の地図にも道は記されていない。確かに昔は道があったはずではあるが、すでに過去のものとなってしまっている。
2020年6月28日追記
広河原越の埼玉側の沢筋の道を下っていて思うのは「どう見てもここを馬が通ったとは思えない」ということです。本来の峠道は、沢沿いではなく別にあるのではないかという疑問が生じるのも自然な成り行き。この界隈に精通している山サイ研の先輩に聞いてみると「馬道のコルから群馬側を背に左に道がついているが、実は右側にも山肌を巻くように道があるはず」とのこと。確かにこのルートの方が馬が歩きやすい道になりそうです。それを裏付ける貴重な資料が「原全教の上武国境・馬道のコル越えの径路推定」に掲載されています。 いつか本当の馬道を完全トレースしてみたいものです。
ここが最大の難所なのである。道はないので、沢づたいのルートとなる。沢登りとしてはさほどの難しさはないとしても自転車を担いでとなると難易度は急上昇。 担ぎ、ルートファインディング共にかなり高い技術が要求される。付近には天丸山や帳付山など、西上州で人気のある山があるために、情報量は多いが、過去にこのコースを自転車で越えた極めて少ない。
2004年のお正月。上野村は無風快晴。2週間前に降った雪も日向ではほとんど消えている。いい条件だ。ルートに関しても、馬道の下見を2回、バリエーションルートの調査を3回行っている。しかも同行者はこの界隈に精通しているベテランのO前さん。万全の態勢である。 それでもこの時期は日没も早く、未知のルートが含まれているので、装備も慎重になる。不測の事態に備えてツェルトと予備の食料を持ち、家人にも「場合によっては山中で1泊になるかも知れないが心配しないように」と言い残してきた。ここまでしておけば日没間近に焦って行動することも避けられるというもの。
天丸橋を起点に周回を取る。当初の計画では埼玉側から担ぎ上げて馬道に入る予定だったが、今回は逆に馬道から埼玉側へ抜けることにした。8時20分、準備万端いざ馬道へ。最初は程良い登りの林道を走る。すぐに天丸山登山口に着く。と、びっくり!あまりにも立派な道になってしまっている・・。
社壇乗越から続くお待ちかねの馬道もごらんの通り。昨年の2月に下見できた時とはえらい変わり様である。工事したてなので違和感はあるが、時が経てば自然にとけ込み雰囲気の良い道になるだろう。馬道は雪があって乗れないだろうと思っていたが予想に反して、途中まで気持ちよくサイクリングができた。
拡幅工事の道も途中まで。
そこから先は従来の雰囲気に戻る。峠まで押したり担いだり。
【Photo by Hitoshi Omae】
日陰になると雪もそこそこ残っていた。暮れから新年にかけて馬道を歩いたのは動物ばかりのようで、人間の足跡は見あたらなかった。肩に担いでいたMTBをところどころで降ろして、雪の馬道に轍を残す。この後も、峠を越えて林道に出るまでそこかしこで、このように雪に轍を残してきた。
1時間50分で広河原越(馬道のコル)に到着。さて勝負はここからである。ここから先、最初こそ笹藪の中にかすかに道らしきものがあるが、それも長くは続かない。その先は至高のワンダーランドである。
【Photo by Hitoshi Omae】
埼玉側は藪こぎから始まる。コンパスを進行方向にセットして、いざ突入!いきなり最初から矢沢峠クラスの笹藪だとそれだけで気力体力をかなり使ってしまうが、藪こぎの難易度はそれほどでもなかったのでひと安心。
【Photo by Hitoshi Omae】
藪の後は沢下り。「 かつて馬が歩いた道はどこなんだ?」と思いながらも沢筋を行くしかないような状態が続く。この沢下りを10回くらいやれば、山岳地帯での自転車の扱い方はプロ級になれることだろう。担ぎ技を駆使して沢を降りる。距離自体はさほでもないが、こんな状態で降りるので林道まで約2時間かかってしまった。
いつもは地形図とコンパスで勝負するが、今回はハンディーGPSを持参。 実際に馬道はどのようについているのか25000/1の地形図に落としてみたかったのと、林道から沢のとりつきの部分の正確な場所の確認のため。初めて山で使ってみたが、今自分がいる場所の確定の正確さには驚いた。こんな便利な機械に頼り切ってしまうのもいかがなものかと思うが、地形図を読むための心強いサポート役になることは確かである。
13時に無事、林道に出た。ここでようやく腰をすえてランチタイムとなった。さて、この後は林道を走って車を駐車しておいた天丸橋へ戻るのだが、帰りにもう一つ、いにしえの峠「六助」を越えることにした。西上州の秘蔵の峠「六助」は、ちょうど天丸トンネルの上にある。山と高原の地図の1995年版にはこの峠を超えるルートが赤い点線で記されていたが、その後林道工事も進み2003年度には、峠越えのルートは消え、六助の名称のみ記されている。昨年、O前さんからこのルートのとりつきを教えてもらったが、現地に行ってもまったく見当もつかなかった。
広河原越を越えただけでも大満足だったが、さらにO前さんの先導で六助まで越えることができた。なんとラッキーなことか。 とりつきは実にわかりにくいが、その先、峠までは予想外に明瞭な道が残っていた。峠には祠があって実に良い雰囲気だ。
かつて広河原越と六助を1日で周回した先輩がいる。当時は林道もなく、今よりもはるかに長い区間の担ぎあげが必要なはず。今回、林道を走りしかも馬道の状態も良好、それでもまる1日かかったのに。その技術・体力・情熱にただただ敬服。
六助から群馬側の旧道を歩き、再び林道へ合流。日没にはまだ少しだけ余裕のある午後4時に無事天丸橋に着いた。
天丸橋08:20 -- 社壇乗越8:45 -- 広河原越(馬道のコル)10:30着・10:55発 -- 広河原林道合流13:00着・13:55発 -- 広河原林道 -- 六助14:40着・15:20発 -- 天丸橋16:05