かつて上野村と南牧村を結ぶメインルートだった楢沢峠

群馬県多野郡上野村【2002.04.28】

一昔前まで、上野村と南牧村を結ぶメインルートだったという楢沢峠。当時は、上野村の子供達が東京へ修学旅行に出かける時にも、ここを歩いて越えたという話もある。峠にまつわる話はいつも興味深いものばかりだ。

楢沢峠への道は、私の手元にある国土地理院発行2万5千分の1の地形図「十石峠」(昭和48年測量 昭和62年修正測量)に記載されているルート通りで、地形図が読める人なら難なくいけるはず。ルートは正確に記されているものの、楢沢峠の名前は記されていない。
ただし、この地形図が修正された後にできた林道は、当然だが、記載されいない。ちなみに、山と高原の地図の1995年版では、すでにあの目立たない点線(登山コースではない小道)になっていたが、楢沢峠の名称はしっかりと記載されている。

馬頭観音
ゴールデンウィークの前半戦。好天に恵まれた今回の楢沢峠越えはシノちゃんのニューマシン LOUIS GARNEAU のデビュー戦でもある。国道沿いの十石茶屋付近に車をデポして、スタート。塩ノ沢峠まで上りあげて、そこから御荷鉾スーパー林道へ入る。と、間もなく、楢沢峠の入り口へ。入り口の反対側を登ると立派な馬頭観音がある。昔はメインルートだったという片鱗を感じさせる立派な観音様だ。

楢沢峠入り口
地形図をよく読めば、発見できる楢沢峠の入り口。最初からテクニカルな担ぎ上げで、山岳サイクリングを大いに盛り上げてくれる。

楢沢峠への小径

困難な担ぎ上げが続くのかと思いきや、徐々にまともな道になってくる。荒れているのは最初だけだった。部分的に道幅が広くなった箇所も残っており、当時のにぎやかな往来を感じさせる。うっとりすくらい美しい落ち葉の小径、広葉樹林帯で最高の雰囲気となる。しかも場所によっては登りでもMTBに乗れてしまう。

楢沢峠への小径

楢沢峠
途中の小さな尾根で、尾根沿いに明瞭な道と尾根を越えて直進する道とが現れる。なんとなく尾根沿いの道に行きたくもなるが、ここでコンパス片手に地形図を確認すれば一目瞭然。もちろん小さな尾根を越えて直進する。 ほどなく行くと、楢沢峠に到着。

畑に出る
峠からは快適なシングルトラックの下りが続くが、すぐに畑に出てしまう。幸運にも、ここで畑の持ち主に会う。 我々が楢沢峠を越えてやってきたことに大いに驚いていた。この驚きは、いつものパターンではある。 畑の端を通らせていただいた旨を伝え、その後は、ここぞとばかりに当時の様子を聞いた。
「上野村の子供達が、この楢沢峠を越えて修学旅行に行ったという話を聞いたのですが」
「ああ、そんなことまで良くまあ知ってるなあ」
予め、予備知識があるとないでは、雲泥の差である。この後、畑の持ち主は非常に喜んで話をしてくれたのだった。
「当時の上野村の子供はみんな足が達者だったからな。楢原から峠を越えて南牧村の磐戸へ出てな。そこからはバスで下仁田まで行って、上信電鉄で高崎や東京まで行ったもんだ」
「いつ頃の話ですか?」
「そうだなあ、昭和25年頃までかなあ」
「峠を越えて、南牧村まで行くのは結構大変ですね」
「いや、昔はこの峠道しかなかったから、今と違って人通りも絶えなかったし、広くていい道だった。 楢原から磐戸まで1時間20分で行ったもんだ」
にわかに信じがたいが、たしかに本人の口から出たのは「1時間20分」だった。
「俺が若い頃は、南牧村の磐戸あたりで1日遊んでその日の夕方帰ってくるのはあたりまえだったからな」

考えてみれば、今は驚くほど歩かない。田舎に行けば行くほど、車社会になってしまい、すぐそこ、ほんの2,3分で行けるところまでも車に乗ってしまうんだから。最近になってようやく自転車や歩き(ウォーキング)が見直されてきたが、私が住む田舎では、ちょっと前までは自転車に乗っていれば「免停にでもなったのか」と言われ、歩いていれば「車が壊れたのか」と声をかけらたものだった。もっと歩かないとほんとに歩く機能が退化してしまうかもかも知れない。

普通だと、ここ(大平)から先は林道が延びているので、つい林道を走ってしまいがちであるが、旧道派としては可能なかぎり当時の道をトレースしたい。畑の脇の道をそのまま、林道が延びている方向の反対側に行けば、それが旧道となる。さすがにこの辺は道幅が広い。ただし、今はほとんど人が通らないのか、かなり荒れている。

旧道出口
旧道を下ってくると、林道に合流。これをこのまま左へ、すぐに人里におりてはもったいない。ここはひとつ、右へ。須郷方面へと続く道をたどることにする。地形図には、幅員1.5m〜3mの実線で、須郷まで続いている。ここで油断してなんにも考えずにペダルを回していると、あれっ?ここは・・先ほどの大平、例の畑に舞い戻ってしまった。そうだったのです。地形図には大平から先、旧道は記されているけど、林道はその後にできたものだから、この地形図にはまだ記されていなかったのだ。

そういえば・・たしか途中に分岐があった。あれが須郷への道だったとは。

再び旧道へ

普通の林道。あまり期待をしていなかったのだが、ご覧の通りなかなかの雰囲気。ほとんど車が通らないのか、まさにMTBのための道といった感じである。いつも、シングルトラックばかり気にしていたが、なかなかどうして林道も捨てたもんじゃあない。

旧黒沢家前
気持ちよく須郷まで林道を走り、その先、楢原へ出る。ゴールはもうすぐそこ。自転車雑誌のツーリングレポート風に、最後は名所旧跡「旧黒沢家前」できめてみた。